ソレノイド使いこなしテク
ソレノイドを使いこなすためのテクニックをご紹介します。
駆動について
フライホイルダイオード
ソレノイドのコイルは大きなインダクタンスを持っています。
このため、電流の遮断時に発生する逆起電力によって、様々な影響が発生します。
この影響を避ける為にコイルに並列にダイオードを挿入する方法が良く用いられます。
これをフライホイルダイオードといいます。
このダイオードにより、発生する電圧をそのダイオードの順方向電圧にまで押さえ込むことができます。
ダイオードの順方向電圧は一般的に1V以下になるため、効果的に外部への影響を下げることが出来ます。
ただし、このように低い電圧となるため、エネルギの放出に時間がかかるのが難点です。
ダイオードに流れる電流の最大値は、ソレノイドに流れる電流に等しく、印加される逆電圧は電源電圧に等しくなります。
ダイオードの逆耐圧は電源電圧にノイズ等を考慮しながら余裕を見て決定します。
「めかとろ通信 38号」で詳しく説明しています。

電源について
交流駆動
当社のソレノイドはDCソレノイドで、交流電源では直接駆動できません。
ブリッジダイオードで整流した後通電する必要があります。
ブリッジダイオードは余計に必要となりますが、ACソレノイドに比較してメリットもあります。
ACソレノイドはその作動ストローク中で機械的にロックされた場合、発熱が非常に大きくなり、最悪焼損に至ります。
DCソレノイドは構造上そのようにロックされた場合でも、異常発熱で焼損するようなことはありません。
これは安全上大きなメリットとなります。
ACソレノイドは、このための対策が取れない場合には使うべきではないかもしれません。
DCソレノイドはACソレノイドのように突入電流が流れる事がないので、駆動するのが楽で電気ノイズを生じにくいというメリットもあります。
ACソレノイドは作動終了後に磁気ギャップをできるだけ小さくする必要があり、この部分に緩衝材を配置することができません。
このため、非常に大きな作動音の発生が避けられません。
DCソレノイドは作動最終端で磁極が接触しないようにストッパを設けたり、衝撃を吸収する素材を配置して作動音を抑えることが可能です。
ただし、DCソレノイドは起動推力がACソレノイドに比較して小さく、ストロークが大きく取れないのが欠点です。
なお、図のようにブリッジダイオードを経由して駆動するときには、フライホイルダイオードは設置する必要がありません。
ブリッジダイオードが同様の動作を行い兼用します。

応答速度について
①作動速度の向上
動作の起点になる、作動初期に大きな推力を得られるほど速度が向上します。
ソレノイドは磁気ギャップの大きさに反比例して推力が低下しますから、できるだけ小さなストロークが望ましいことになりますが、実際にはそういうわけにはいかないケースも多いと思われます。
ソレノイドの発生する推力はコイルに流れる電流にほぼ比例します。
ソレノイドコイルは大きなインダクタンスを有するので、電流の立ち上がりが緩やかになります。
推力の立ち上がりもこれに従うことになります。
定格電圧の低いコイルのほうがインダクタンスが小さくなるので、電源電圧より低い定格電圧のコイルを選択することで立ち上がりの改善が望めます。
ただし、コイルの温度が上昇してしまうので、直列に抵抗器を挿入して電流を抑えることになります。
この方法を準定電流駆動といいます。
この抵抗器の発熱が気になる場合には半導体スイッチを用いてPWMなどにより定電流制御すると損失を減らせる上、速度向上効果も大きくなります。
図はこの様子をシュミレーションしたものです。
なお、高速駆動については「めかとろ通信 33号」にて解説していますのでご覧ください。

②復帰時間の短縮
往復での総合時間を短縮する為には、往方向だけでなく、複方向の戻り時間も短縮しなければなりません。
ソレノイドは戻り方向に力を発生できないので、復帰ばねを用意することになりますが、この強さが戻り時間に影響します。
バネ力を強くするほど戻り速度は早くなりますが、往方向には負担増になるのでバランスを見て決めることになります。
一般的にフライホイルダイオードを用いて逆起電力対策を行いますが、これに流れる電流が復帰の開始時間を遅らせることになります。
フライホイルダイオードは復帰時に発生する電圧を1V以内に押さえ込みます。
この大きさを調整することで戻り遅れを改善できます。
具体的にはフライホイルダイオードに直列に抵抗器を挿入したり、定電圧ダイオードを挿入したりすることで実現できます。
挿入した抵抗値が大きいほど、また定電圧ダイオードの電圧が高いほど、時間短縮効果は大きくなりますが、スイッチ素子の負担は大きくなります。
この値も全体のバランスを見て決定する必要があります。
ソレノイドの作動終了端での推力は大きな値を示します。
これはソレノイドの特徴の一つですが、これが復帰開始遅れの要因にもなっています。
最終端での負荷保持力が確保できる範囲で、保持時のギャップを大きくすると復帰開始遅れを改善できます。
動作方向での駆動推力、保持力とのバランスを見ながら決めます。
なお、この問題については、「めかとろ通信 33号」及び「めかとろ通信 38号」をご覧ください。

寿命について
①軸受の負担
ソレノイドの寿命は、軸受の磨耗が決定することが多くなります。
軸受の負担はサイドフォースを減らすことで軽減できますので、機械負荷ができるだけ軸方向にだけ加わるような構造として、径方向の荷重を減らすことが寿命を延ばす効果が大きくなります。
また、異物の噛み込み等も軸受けの寿命に影響します。
粉塵などコンタミに注意し、環境にも配慮してください。

②作動端の処理
作動端のストッパは十分検討して設置します。
必要以上の推力で駆動し、ストッパに衝突させると、ストッパが機械的に磨耗・変形などで初期の性能を維持できなくなるだけでなく、軸受けにも負担が大きくなります。
温度上昇対策・節電対策
吸着後に長時間保持する場合、このときの電力が気になることがあります。
鍵などのロック機構の場合には、保持に電力を必要としない自己保持型が最適です。
大きな保持力が必要な場合には、フラット型が適しています。フラット型はギャップの小さなところで非常に大きな推力を発生しますので、保持力に余裕があるのなら、保持時の電流を下げることが可能になります。
節電効果以外にも、コイルの温度上昇の抑制、復帰時の復帰遅れ低減といろいろ効果が望めます。
電流を下げるのは、電源の切替、抵抗の挿入等で簡単に行えますが、スイッチングによるPWM制御が損失の面で適しています。
自己保持型については、「めかとろ通信 第35号」「めかとろ通信 第36号」で解説しています。
